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ベースを包丁に。次の夢はここにある。【名田伊里也】

~DISCOVERYではたらく人々 第12回~

サービスの魅力を追い続ける男。【湯浅翔太】

~DISCOVERYではたらく人々 第11回~

幹さん、「世界演出」って何ですか。

〜ディスカバリーと、器のこと〜

酒とメシ、好奇心と数字。【田島正人】

~DISCOVERYではたらく人々 第10回~

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~DISCOVERYではたらく人々 第9回~

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~DISCOVERYではたらく人々 第8回~

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~DISCOVERYではたらく人々 第7回~

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~DISCOVERYではたらく人々 第6回~

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~DISCOVERYではたらく人々 第5回~

図面からまな板へ。彼女の真の「芯」。【小林祐子】

~DISCOVERYではたらく人々 第4回~

ベースを包丁に。次の夢はここにある。【名田伊里也】

~DISCOVERYではたらく人々 第12回~

第十二回は、ikkaiの名田伊里也です。調理場で腕をふるう彼は異色の経歴、そして紆余曲折。ディスカバリーの店舗の中でも独特のスタイルで営業するikkaiを担う彼の思いとは。
(インタビュー・恩蔵あゆみ)

■音楽をやめて、何のために働くのか分からなくなった。

ikkaiの店長兼料理長です。38歳になります。去年の9月1日入社です。
僕は30から飲食業界に入ったんですよ。もともとミュージシャンやってて、次にサラリーマン、次にフリーター…で、30をきっかけに次の夢ということで。

—ミュージシャンだったんですか?

はい、ベーシストです。ビジュアルロックで19歳でデビューしました。「マーシャ」っていうバンドで、アニメのエンディングのタイアップでデビューして。あの細長いケースの…そう、CDシングル(笑)
仕事なのでやりたくないジャンルもやらなくてはならず…色々あって辞めました。27、8歳でもう1回デビューの話が来たんですけどそれが頓挫したので、それを機に音楽は辞め、そこから8年くらいサラリーマンでした。子供ができて結婚もして。自分を活かせる仕事をと思い、僕は半分ロシア人なんで、ロシア専門の旅行代理店に勤めました。
音楽やめてからしばらく夢がなくて…何のために働くかを見つけられなかったんです。それで飲食業界で第二の夢を追って見ようかなと。それが30ですね。

—-音楽ってシンプルかつ強烈な夢ですもんね。断ち切るのが大変だったのでは。

はい。10年かかりましたね。
旅行代理店の時は、生き甲斐というより家族のためにだったんですが、その後離婚もして何のために働くのかわからなくなってさらに迷走しました。だから色んなことに挑戦しようと思ってサラリーマンの後フリーターもやり音楽もやり。でも「何のために」が見つからなかったのがいちばん辛かった。
30になって社員として勤めたのは普通の居酒屋だったんですが、店長になるためには調理もホールも両方できなきゃいけなかったんで両方やらざるを得なくて、そこに5年半いました。

—料理は現場で?調理師専門学校を卒業して料理人になった人ばかりのディスカバリーの中では異色ですね。

そうですね、異端児だと思います。
最初の一年は気持ちの整理するのでつらかったんですけど、あることをきっかけに「あ、これだな」って思って、そこから急激に成長できたのかもしれません。

—-そのきっかけとは?

それまでは「調理して、提供して、ありがとう」だけだと思ってたんですけど、実はもっと奥深いものがあると教えてくれた飲食店の社長さんがいて。その人の講演会をたまたま聴きに行って「ああ飲食ってこんな面白いんだ!」と。
ただ現場で作業だけをやってたけど、「作業」と「仕事」と、さらに志す方の「志事」というのがあると教えてもらい、自分で決めていくと楽しいんだなと気づいたのがきっかけです。

「店づくりは人づくり」というのもその方に教えてもらいました。神奈川の方でキープウィルダイニングという会社をやっている保志真人さんという方です。講演会は何回も聴きに行ってすごく影響を受けて、勉強するすようになりましたね。僕は彼がいたから今ここにいると思ってます。
実は先日「いいと」の方に食べに来てくれたんですよ。その時は挨拶に行きましたね。向こうも覚えててくれて、でも何年も会ってないので「どこかで会ったよね」くらいの感じだったけど、それでもすごく嬉しかった。影響受けた人が自分のところに食べに来てくれるっていうつながりは飲食ならではだなと。

—–高い視点を持つようになって…ずいぶん変わりました?

はい。今まではただ作って盛って出すだけでしたから。でも料理ができる人たちには叶わない。なので「どうしたらみんながやる気になるのか」っていうしくみの方を深く考えるようになりました。ヒエラルキーの三角形の逆版だと思うんです。僕ら役職者がボトムになって、最前線にいるのはアルバイトや社員の若手のメンバー。そういう子たちに何のために働くかという目的意識をつくってあげるとすごい伸びるんです。僕1人が頑張っても仕方なくて、みんながいないと僕もいない。

—-上を下が支えるというヒエラルキーじゃないよと。

そうですね。下で支えて、上で広げていく。お客さんに直接会うのはアルバイトの彼らです。その彼らに頭ごなしに「何で笑顔じゃないんだよ」「笑え、挨拶しろ」って言っても意味がない。何故そうするのかを分かってもらって、それを楽しいと思ってもらえるよう、僕ら役職がついてる人間が考えなきゃいけない。それをすごく考えるようになって、楽しくなりましたね。

最初の1年はもがいて、次の1年から勉強するようになって…何となく形になり始めたのは4年経ってからですね。その時働いてたメンバーはすごく伸びて。そういう子が巣立つのを見ているとほんと面白かったです。ああ、こういう会社を作りたい…と思いました。それには独立してお店をやった方がいい、まずは本格的に料理の勉強しようと。そこから色々あってディスカバリーに出会いました。

■「やばいところに入ってしまったな」

—-ディスカバリーに入ったきっかけは?

武藤さん(人事部長)との面接がきっかけです。
他にもいくつか受けたんですけど、ここは今まで受けた面接とは何もかも違ってました。
武藤さんは…面接の時に僕の履歴書ははじっこに置いてあった。「これはもう読んであるから」って感じで、そこについてほぼ聞かれず。「どうしてうち選んだの」とか普通の流れがあるじゃないですか。武藤さんにはそれがなかった。ちゃんと目の前の人を見てくれてるな、人を引き出す人だなと。飲食はまず人ありきの商売だし、そこに惹かれましたね。今でも、武藤さんには一番何でも言える気がします。

—-実際に入ってみた印象は?

「ああ…やばいとこ入ってしまったな」と。僕が過去にやってきたこととはレベルが段違いだったので。僕は居酒屋で冷凍ポテトフライ切ってグラム分けして放り投げるみたいなことをやってきたので、当たり前だけどここでは全然違う。職人がいっぱいいる。勉強できるいい機会だとは思いましたけど。

—-「料理長に」といわれたのは?

9月に入社して…10月中旬ですね。「料理長!?料理やってないのに」と思いました。過去に修業したとはいえ、やってたことがディスカバリーとは違いますから。そもそも僕はホール採用だし(笑)一応「両方できます」とは言ってありましたけど。最初は調理場も手伝いつつホールっていう形がいつのまにか…。もちろんプレッシャーはありましたよ。今でもプレッシャーです、はい(笑)

苦労ですか?今がいちばん苦労してるかもしれないです。最初は上長たちがいたから作業だけでよかった。その後も、荻根沢さん(いいと総料理長)とかがフォローしてくれたので、言われたことを守ればよかった。それがここにきて自分で作り上げなきゃいけないという立場になったので。

—-ikkaiのスタイルは独特だからディスカバリーの他店舗に倣うわけにはいかないですもんね、どういうお店にしようと思ってますか?

「紡ぐ」ことができればと思います。飲食は食材やお客さんをつないでいく仕事だと思うので。以前の店で日本酒に力を入れようと、蔵に行って蔵元を知ってそれを社員に伝えるっていうのをやってたんですけど、そういうことをここでもできればと。あとはやはりホール力を上げたらお客さんももっと楽しんでくれるんじゃないかと。

料理長になってからは、福田と僕がメインで後はアルバイトだったんですけど、今年の3月から滝本が来てくれて、この体制になって4ヶ月。今も試行錯誤の最中ですが、その中で3人は色んな話はできています。アルバイト入れても5人しかメンバーがいないので、コミュニケーションはとれてると思います。

—-名田さんがお仕事をしている上で大事にしているものは。

やはりコミュニケーションです。メンバーが暗かったらそれがお客さまに伝わってしまうので、働く子たちのことは常に意識します。誤解もすべてコミュニケーションのなさから始まるので、話しかけることはよくします。
今はとにかくその人を知る・僕を知ってもらうっていう段階ですね。だいたいみんなの性格は分かってきたので、次はどうやってチームをつくるかという段階に行こうと思っています。この店をどういうふうにしていくか。その上で僕の考え方を伝えたい。で、賛同を得てから寄せて行くやり方をしたいです。

■変わり続ける中で「つながり」を生みたい。

—-今はメニューも変わってきたり、ほんと試行錯誤ですね。

そういう意味でいろんな勉強させてもらってるなと思いますね。
思ったことをやっていいとは言われてますが、自由すぎる部分もあって逆に怖い(笑)どこまでやっていいのかなと。今はそれを楽しむしかないんですけどね。
会社的にも変な上下関係全くないですから、意見は通りやすいです。田島さん武藤さん…もちろん幹さんにしろ、壁を感じない。幹さんは代表だからこちらはそういうふうに見てしまうけど、実際話すとすごくフランクでへだてがない。mtgで会う他店舗のマネージャーや料理長にも、誰ひとりへだてがないから、働きやすい場所だと思います。

—-そんな中でも「失敗した」「もっとこうすればよかった」というエピソードは?

常に失敗はしてますが大失敗はまだ…。もっとこうすればよかったは、ほぼ毎日あります(笑)お客さんに対してもメンバーに対しても。従来のお皿や料理を変えていこうというのがここ1、2ヶ月なので、色々みんなで考えながらの段階ですし。

—-そう考えると、定番というのがないので日々考えることが多い店舗なのかもしれませんね。

それは思います。毎日「どうしていくか」ですね。考えること自体は楽しい。行き着くまでのつらさも楽しいというか…どMな考え方ですけどね。

—–ikkaiをやっていて嬉しかったことってありますか?

常連さんが増えてきた。うちを求めて来てくれる人が増えて、顔を覚えてもらって名前で呼んでもらえるのがいちばん嬉しいです。最近そういうのが見えてきて嬉しいなと感じますね。

—-色んなお仕事をやってきたと思うんですが、共通しているもの、過去の経験が活きたものって何でしょう。

音楽の世界は芸術の世界でもあって、飲食もそれに似た部分はある。でも1人で音は出せるけどバンドで1つの作品を作るにはみんなで…という意味では、周りをきちんと見る、自分だけのアピールじゃダメっていうのは共通してますね。
それと、旅行代理店時代には現地コーディネートや海外の大手会社のパーティー立ち上げなどもやっていたんですが、現地に入って打ち合わせして手配して…。これも一つの料理を出すのに色んな業者さんと連絡して食材を引っぱってきて…という今の仕事につながってますね。段取りについての考え方が柔軟になりました。

—-色んな職業を経験したからこその強みですね。

そうですね。
中学校時代すごく好きで聞いてたラウドネスというバンドがあって、この人たちと会ってみたいと思っていたんですが、実際デビューする時に僕の所属会社の社長がラウドネスのドラムの樋口宗孝さんだったんです。そこから当時聴いてた人たちとどんどんつながりができて、X JAPANのTAIJIさんとかもお会い出来たり。何かひとつをきっかけにつながっていくのってすごい力だなと思って、飲食でもそれができるんじゃないかと思うんです。
前のお店のお客さんも連絡をくれたりしますし、逆に僕を介してお客さんとお客さんがつながってくれたり。そういうことが飲食店のひとつの楽しさですね。

■「スキルがないから無理」は後悔する。

—–まだまだ道の途中だと思いますが、これからこういうお店にしたいというのはありますか。

「麻布十番のオアシス」です。癒しになれて、笑顔があふれるお店にしたい。
麻布十番は色々面白くて、平日と休日の差がすごい。平日はサラリーマンの方。休日は地元の方。地元の方って上品なのかなと思ったら、意外にフランクな人が多い(笑)「噂を聞いて来たよ」という人もいらっしゃって、嬉しいです。

—-名田さん個人として、これからこうなりたいという目標は。

人づくり、会社づくりにすごく興味があるので、しくみづくりをやるというのが目標です。先々には創造の方にもっと挑戦してみたいという気持ちがありますね。
でもまずはこの店から、目の前にあることから。なので今はその目標を言ってないけど、この先はそうしたいと思いながらやっています。

—-では最後に…調理師学校を経ずに料理長につくのはレアケースだと思うので、これから目指す人にひとこと。

「何事も無理だと思わず挑戦すること」じゃないかな。まずやってみなよ、と。一番の後悔って「やらないこと」だと思うんで、興味があるならスキルがなくてもいいからやってみる。それは本当ににこの会社入って思ったことです。周りが支えてくれる環境があるのは、ディスカバリーのすごいところだと思います。

—–いまお休みは取れてますか?

はい、何とか。最近入谷に引っ越したので近所を散策してます。実際はちょっと三ノ輪の方なんですけど、僕は名前が伊里也(イリヤ)なのでその地域を散策してます。至るところに僕の名前がありますよ(笑)
知人にすごく歴史に詳しいのがいて。徳川家康が江戸城の鬼門にあたる場所に寺を建てていて、入谷の寺社仏閣も芝の増上寺も日光東照宮も…というのを聞くと、行ってみたいなと思って。

—-そういうの好きなんですね。

ほんとここ1〜2年ですね。やっぱジジイになったのかな(笑)
例えば麻布十番界隈の人たちに聞くと、昔はここには何もなかったとか、鳥居坂の名前の由来とか…。それを聞いたり調べたりするのが楽しいと思えるようになりましたね。で、こういう僕のつまんない話をそこの2人(福田、滝本)が聞いてくれる。鬼門の話とかしても「ふーん…」みたいな反応ですけどね(笑)


「ザ・和食店」の形にははまっていないikkaiと、異端児である名田さん。これからの変化が楽しみです。写真撮影時にメタル(ロック)のハンドサインでおどけてみせるちょっぴりシャイで愉快な人。お店に行った際はぜひ、音楽の話や寺社仏閣の話などしてみて下さいね。