静かに秘めた「修羅の魂」。【荻根沢勝利】

~DISCOVERYではたらく人々 第5回~

第五回は、前回の小林祐子インタビューで幾度となく名前が登場した「荻さん」こと荻根沢勝利です。スキンヘッドに鋭いまなざし…。一見「ちょっとおっかない古参の料理人」に見える彼の、これまでとこれからを。
ちなみに今回のタイトル、とある俳優さんの出演作から一部拝借しました。誰なのかは最後のお楽しみ…。
(インタビュー・恩蔵あゆみ)

 

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■変わらない世界から、怒濤の日々へ。

–現在のお仕事内容を教えて下さい。

今年の2月までは食幹ソラマチ店の料理長をしていましたが、3月からは「いいとプロジェクト」に携わっています。
現在は「いいと」(現在は麻布十番の「いいと」「いいとikkai」の2店舗)のディレクターをしています。この役職はディスカバリーでは初です。
みんなのことを引っ張ってゆくのが自分の役目。「いいと」としての方向性が必要なので、社長と話しながら、こっち行こうよあっち行こうよと。上から見つつ現場にもいるので、中にも入りつつ。「いいと」で現場に入った時は握り(寿司)をやっています。「いいとikkai」も、時々。

–入社して4年なんですね…貫禄あるから10年くらいかと思ってました(笑)ディスカバリーに入るまでの経緯を教えて下さい。

18から料理の世界にいました。ずっと和食一筋です。
最初は赤坂の料亭に入って、次に大手町のパレスホテルに。ホテルでは懐石も出しますし、会議の弁当も、出張も、パーティーもやりました。ディスカバリーに来る前に4、5軒くらい経験してますね。和食って必ず親方がいて、親方が替わると店も変わるので、紹介であっちへ行け、こっちへ行けというのが慣習でした。
和食の世界は昔を重んじる考え方なので…上に人がいっぱいいて、ずっと変わらない。(親方の)鞄持ったりとか、傘さしたりとか、ライターに火つけたりとかしてましたね。仕事ができるとか腕がいいとかの前に親方に気に入ってもらわないと仕事にならないんですよ。変な世界ですよね(笑)それが当たり前だと思ったんですけどね。「いつまでもこれ続けるのかな、もういやだな」と思って、いったんその世界から離れようと。その時に求人広告でディスカバリーに出会いました。ちょうど食幹ソラマチ店新規オープンの募集で。33歳の時です。

–面接に行ってみてどうでしたか?

驚いたのは、社長がTシャツ着て現れたこと(笑)「面接なのに社長がTシャツ!」と衝撃受けました。
渋谷食幹に面接に行ったんですが、オープンキッチンで、しかもその中に女性が2人いて、あ、こういう環境なんだと。今まではバック厨房でお客さんの目に触れることはなかったし、いるのは男性だけ。「ザ・和食料理人」みたいな世界にいたんですが、ここはカウンターがあって女性が中で働いてて。ランチにつけ麺やってるし!前菜にトマト味噌とかポテトサラダ出してるし!ともう衝撃的で(笑)でも不安にはならなかった。「ああ面白そうだな」と思いました。

–これまでは十数年修業しても上の人がいたけど、ここは社長も年があまり変わらないし、働いてる人も若いし。

はい。ホテル時代は30人位で働いていたんですが、上に人がいっぱいいて。親方が60歳だったので、先輩は50代〜30代。その時20代だったので「俺ずっとこの位置か…先が見えないな」と。その頃はほとんど何もやらせてもらえなかった。ものを揃えて、先輩が切る。切ったものをまた動かして次の段取りをできるようにするという流れ作業なんで、若手が包丁を持つことはまずない。何十年かやらないとそこまで行けないんです。
だけどディスカバリーに面接に行ったらいきなり「ソラマチで料理長やってください」って言われて「えっ!?」と(笑)「食幹ソラマチ店の新規オープニングスタッフと料理長募集」ではあったんですが、もちろん料理長希望では行ってないです。でもいいチャンスだなと思ったので「やらせてもらえるならば」と。それでまず食幹渋谷店に研修に入りました。

そうしたら初日からいきなり最前線のカウンターに入れと。「お前、料理長やるんだろ」と小野木さん(現・広尾「小野木」店主)に言われまして。…入ってみたら緊張して、目の前のお客さんとぜんぜん喋れませんでした。それまでは全部バック厨房でやっていて、接客は全て仲居さんがやっていたのでお客さんと接することが全くなかった。料理はこれまでのようにできるんですけど、やりながらお客さんと喋るっていうのはやったことがなかったので、小野木さんには結構叱られてました。「お客さん見ろ」って。でも「どうやって見たらいいか分からないんですけど…」と(笑)それは慣れるのに時間かかりましたね。

–他に「これは今までと全然違うな」と思ったことはありましたか。

料理人の世界にいると、料理に100%なんですよ。ディスカバリーに入って思ったのは、50:50くらい、いや実際は60%くらいお客さんの方にパワーを注いで料理してる感触でしたね。お客さん重視。会話以外だと、おしぼり替えたり、お茶出したり「次のドリンクどうしますか」とかの気づかいですね。

–向こうからも話しかけられますしね。

そうです。料理だけには集中できなくなったんですが、それよりもまずお客さんだなと思いました。今まで自分の中にできていたペース配分や段取りは全部崩れました。でも2ヶ月間の間に慣れるしかない。僕が渋谷での研修後にソラマチ店に入った時はもう新しいメンバーが来てる状況だったので、食幹イズムを伝えなきゃいけないって役目もあったので。自分が何とかこなせようになったというだけじゃダメで、できてなおかつ人に教えられないといけなかった。

 

■空回りして気づいたこと。

ソラマチに入って、最初は全然うまくいかなかったですね。
僕も初めて大きい舞台の料理長をまかせてもらったので、自分でも物事をうまく伝えられなかったり、幹さん(佐藤幹社長)の考えとの連携もうまくできていなかったんで、もう空回りです。新規メンバーが料理長には言いづらいことがたくさんあっただろうけど、自分もそこに気づかなかったから「何で言わないんだよ!」みたいに返してしまう。
強い自信とまではいきませんが、料理のことなら大丈夫だろうと思ってた。でも「料理さえしていればいい」環境から変わったので、全く違う課題が自分の中で山ほど出てきました。

なので「自分から人に働きかけなくちゃダメだ」と思いましたね。みんなが気持ちよく働ける環境をつくりたかったから、スタッフ1人1人に声をかけるようにしたし、自分が全部やってやろうぐらいの気持ちでやっていたら、色々変わってきましたね。最初は指示出してってやってたんですけど、こちらが動かないと人にも伝わらないんですよね。

–これまでの和食の世界では「下が俺の背中を見て先回りして動け」だったのに。

まったく逆になりましたね。でも自分的にはそれでうまくいくようになった。スタッフからも「荻さん次なにしますか」と言ってくれるようになって。大変だったけど「みんながいかに気持ちよく働けるか」の方が大事なんだなと。そこが僕の中でも変わった瞬間ですね。まだ時々、悪い荻根沢が出ちゃいますけど…「ない」って言ったら(同僚に)嘘だって言われちゃうから(笑)

–私もベンチャー立ち上げ期を経験したので分かるんですが、見て覚えて自分で判断して動くって時期から、会社が大きくなると「教えてくれないからやれませんでした」っていう若手も出てきますよね。そういうのは怒りたくなりませんか(笑)

めちゃくちゃなります。なりますけど、最近では相手に合わせるようにして、自分の考えだけ言わないようにしてますね。一回受け止める。「あ、そうなんだ」と。今までは何か言われるとそれに対してガーッと反論してたんですけど、もうできない立場なので、「そうか、そうだよね。そのやり方いいね」って取り入れるようにしてます。社長からは「みんなのいいところ伸ばしてあげてね」と言われていますし。

 

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■自分のすごさよりも「みんなで」。

–いいとのブロジェクトはもう最初から?

図面から関わらせてもらいました。それも初めての体験でしたね。幹さんから「こういうのをつくるのも料理だよ」って言われてけっこう衝撃的で。「なるほどな」と思って。器に関しても、九州へ行って作家さんとお話させてもらったりしました。より店を大事にしようという考えになりましたね。

–荻根沢さんの料理人としてのこだわりみたいなものって変わりました?

それまでは例えば剥きものならキレイに剥いたりとか、綺麗に料理をすることが格好いいことだと思ってたんですが、ディスカバリーに入ってからは、食材をそのままお客さんにどう届けるかを考えるほうが面白いというか、大事にしなくちゃいけないと思うようになりましたね。例えばにんじんをむいてキレイに見せて「どうだ」ってお客さんに見せて、それが板前の魂だというんじゃなく、例えばいちじくを揚げてつゆを張ってそのまま出すとか。ストレートに食材を伝えるということですね。

–料理人ってクリエイター的だと思っていたので、俺の技で色々やるとか、俺にしかできない仕事という方向に行くのかと。
シンプルにすることに抵抗はなかったですか?

もちろん「俺のすごいをみんなに見せたい」はあったので最初は苦労しましたが、手のこんだ仕事を追求すると結局自分にしかできない仕事になっちゃうんです。それをみんなができるように考えないとお店として成り立たないので、「自分だけができる」じゃなく「みんなができる」料理を考えるように変わりましたね。そうして作ると、みんなで共感できる喜びがあります。
他のみんなも「俺はこれが美味しいと思う」っていうのがあるから、それをまとめるのはすごく難しいけど「これもいいけどこっちのほうがディスカバリーっぽいよね」という言い方をしたりしていますね。

–荻根沢さんがこの会社がいいなと思うところはどんなところですか?

みんなの成長を考えてくれてるところです。
入社してから今まで、毎日違う映像が観れるというか。まあ大変な時期もありましたけど、幹さんにいろんな場所に連れて行ってもらったり、上海のプロジェクトに混ぜてもらったり、今回のいいとのプロジェクトとか。ここに来る前はずっと調理場にしかいなかったから「料理と自分と先輩と親方」で完結してましたから。お客さんとなんて喋れなかったですしね(笑)

–ソラマチ料理長からいいとディレクターになって、自分のやり方や考え方が変わったなというのはあります?

まったく変わりましたね。今までは入り込んで直すのが正しいと思ってたんですが、今は料理長もマネージャーもいるから、僕が入り込み過ぎちゃいけない。立ち位置としては、みんなが廻らない部分、足りていない部分に入れればいいかなと。メンタル的には、なるべく職場を暗くしたくないなというのがあります。それぞれの考え方や仕事のスタイルがあるので、その日にいる人間によって雰囲気って変わるんです。この人が休むとこんな雰囲気、この人がいるとこんな雰囲気。それをいつも統一していたい。「いいとはこれでいうこうよ」というのを作って行きたいですね。

 

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■あのままだったら、見られなかった景色。

–これからこういうお店にしていきたいというのは。

やはり、みんなが毎日楽しく来られるお店にしたいですね。お客さんも、従業員も。モチベーション高く出勤ができて、お客さんも楽しくご来店できるお店。
あとは、いいとブロジェクトの長ですから、まずここを成功させて「いいと」の名を冠したお店をもっと増やしていきたい。和食をベースにしつつ、そばだったりうどんだったり天ぷらだったり。違う業態にどんどんチャレンジしたいです。考えることいっぱいあるんで楽しいですね。

–いまの若い料理人にアドバイスはありますか。こういうマインドで仕事するといいよとか。

僕が若い時には「先輩に気を使う」というのを叩き込まれて。それは悪い慣習にもなってたんですけど、一方ですごくいいことを教わったなとも思っていて。最終的にそれがお客さんにつながって、売り上げにもつながっていくと思うんです。
でも今の若い子たちはうるさく言われない分、それを分からないところがある。でも相手の動きを先に読むことと、常に人に気を使うことを考えていくと、その先がつながるんじゃないかなと思うんです。

–では、ディスカバリーに興味がある人にひとこと。

ディスカバリーって新しい和食の世界なので、そういうところを求めている人だったら合うんじゃないかなと思います。調理場とお店以外で、普通の料理人として生きていたらこの景色は絶対に見られなかったなというものを見させてもらっていますから。それが仕事につながっていくのが楽しいですね。

–オフの時は何をしてますか?

Vシネマ観てます。昔から小沢(仁志)さんが好きなんです。リアルだし、めちゃくちゃ格好いいんですよ。あとは音楽聴きにいったりとか。4つ打ち。トランスが好き。クラブも最近は行けないですけど、面白いのがあったら行きます。

–Vシネは見た目に合ってるけど(笑)クラブは意外ですね!ストイックな和の職人っていうイメージですから。

プライベートは仕事では絶対に出さないようにしてるんで…(笑)
18からずっと同じ仕事しかしてきていないんでどうしてもそう見えるかもしれないですね。でも僕、実はすごい不器用なんですよ。若い時、同期に全然勝てなかった。

–それでも料理人をやめなかったのは?

最初に「そこから逃げたくないな」と自分で思ったんです。それは今でも変わらないんですけど。手先が器用で、昔から料理ができて…というタイプじゃないから、これが天職だとは全然思ってないです。むしろ人より全然できないタイプ。ただ「自分が決めたから逃げない」ということです。

–男前ですね。

いやいや…小沢さん観て勉強してますから(笑)

 

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何事にも動じないコワモテな人かと思っていたけど、「僕すごく気にしいですよ…。顔には出さないけど内心どうしようって思ってたりするし、みんなの反応も気になるし、落ち込むことも引きずることもたくさんあります」と照れ笑い。繊細さと「決めたら絶対にやる」という骨太さが同居する彼のつくるお料理とお店は、これからも周りを幸せにしていくような気がします。


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