CREW

大人のための「シンプルな贅沢」。

〜「shokkanryudo-cho 食幹龍土町」で食べたいひと皿〜

絵から生まれる、お店の「思い」と「オーラ」。

〜ディスカバリーを彩る水墨画のこと〜

「孤高の修業」から「みんなとつくる」花が咲く。【正木美則】

~DISCOVERYではたらく人々 第13回~

「極東」に、新しい「発見」。

〜和のクラフトビールに、和の美味を〜

ベースを包丁に。次の夢はここにある。【名田伊里也】

~DISCOVERYではたらく人々 第12回~

サービスの魅力を追い続ける男。【湯浅翔太】

~DISCOVERYではたらく人々 第11回~

酒とメシ、好奇心と数字。【田島正人】

~DISCOVERYではたらく人々 第10回~

さすらいの経歴を、多彩な武器に。【銘苅隼人】

~DISCOVERYではたらく人々 第9回~

豪胆と繊細で、たどり着いた場所。【渋谷洋輔】

~DISCOVERYではたらく人々 第8回~

一途な女、接客の花道を往く。【知野沙央璃】

~DISCOVERYではたらく人々 第7回~

「計画」と「冒険」の疾走。【金子将大】

~DISCOVERYではたらく人々 第6回~

図面からまな板へ。彼女の真の「芯」。【小林祐子】

~DISCOVERYではたらく人々 第4回~

「人前が苦手な男」の、接客の醍醐味。【島村泰知】

~DISCOVERYではたらく人々 第3回~

サービスの魅力を追い続ける男。【湯浅翔太】

~DISCOVERYではたらく人々 第11回~

第十一回は「食幹」渋谷店から湯浅翔太が登場。いつも柔らかな笑顔で迎えてくれる彼の、まだ入社して1年半と少しとは思えない落ち着き。その秘密を聞いてきました。
(インタビュー・恩蔵あゆみ)

 

■料理人からの転換。

渋谷店のマネージャーです。いま30歳で、入社は2015年の10月です。
その前は8年間くらい純懐石の和食店のサービスマンをしてました。240席くらいの結構大きなところ。上には50〜60歳くらいの人や昔気質のザ・板前さんもいて…怒号なんて当たり前で、手も出たりとか(笑)辞めたいと思うこともありましたけど、色んな経験ができました。その後、食幹に来る前に半年だけ赤坂の鉄板焼き屋の立ち上げにも携わりました。

—-学校を卒業してすぐこの業界ですか?

小学校くらいから料理人になりたかったんです。両親も共働きだったので料理も作ってたし。
高校は調理師免許が取れるところに行き、もう少し勉強したいなと思って料理の専門学校に1年間通い、フランス料理店に就職しました。それが、ビルの4階が厨房で2階3階が客席というお店で。

—お客さんがまったく見えないお店…。

はい。料理作るのは好きだしそれが仕事なんですけど、ただただ作って出して…っていうのが…。またサービスと調理場が仲悪くて。お客さんの声も全く伝わってこないし社員間もコミュニケーションが取れない。1年経った時に「やっぱりお客さんと触れ合いたいな」と思いました。
専門学校時代、自分で学費を稼ぐために住み込みアルバイトでやっていたのがのちに8年間勤める和食屋さんだったんですけど、そこでは接客をやってたんですね。アルバイトではあったけど、お客さんとのふれあいが楽しくて。それを思い出して「サービスマンになろう」と。
料理人になりたいということで今まで来たので、親には相談できなくて自分で決めました。「いいや、若い時は色々やってみよう!」と。好奇心旺盛なので(笑)

接客アルバイトの時、やればやるだけお客さんに「ありがとう」って言ってもらったり、お店に再訪してくれたりという経験にすごくやりがいを感じてたんですね。アルバイトでもそれをできたから社員ならもっと広げられるかなって。料理はいったん置いとことうと。で、和食屋さんに行って「いちからお願いします」と。最初は庭の草むしりから始めて勉強して。そしたらサービスにのめり込んじゃった(笑)

—-銘苅さん(小野木マネージャー)もそうですが、料理人からサービスマンに転向した人ってサービスにすごく強い魅力を感じていて「自分はこっちが合ってる!」ってなってますよね。

そうですね。「もともと何やってたの?料理人?もったいないじゃん」「いやサービス楽しいんで!」という感じです。

 

■マニュアルはない。自分で考える。

—その後、食幹に決めた理由は?

面接をいくつか受けていたんですが、他のお店は淡々と志望動機やここで何をしたいかを聞かれてました。でもディスカバリーの面接は、武藤さん(取締役・人事本部長)がこのインタビューみたいに生い立ちとか、何が好きか、いつも何をしてるか、世間話のように一時間半…。面白いなと思いました。ここは違うな、雰囲気がいいなと。あと大箱じゃないしオープンキッチンなのもよかったです。

—-実際に働いてみてどうでした?

お客さんとの距離が近くていいと思いました。社風も、昔気質の怒鳴る人がいないくて(笑)いい雰囲気、いいお店づくりだなと。
あと、お客さんが何も気負わず楽しんで食事してる…って感じたんです。例えば高級懐石のカウンターだとお客さんも緊張して、板さんも目がギラッとしてるみたいな雰囲気ありますけど、そういうのがない。気楽に食事とお酒を楽しんでる雰囲気。お客さんがほんとに時間を忘れてるんですよ。他のお店だと2時間3時間いると飽きちゃったりするお客さんもいるんですけど、ここは普通に3時間過ぎてもお喋りして飲んで…「ああ、すごく落ち着けるお店なんだな」って感じましたね。

—-ちなみにいま「ザッツ食幹の接客」みたいなものはありますか?

マニュアル的なものは特にないです。僕もマニュアル嫌いですし。型にハマッちゃうじゃないですか。
大きい組織で何百人の従業員がいるところはマニュアルは必要。でも小さいお店は人それぞれの個性をうまく活かしてあげないともったいない。サービスマンの中にも笑顔担当とか元気担当とかあるので、それぞれの個性は殺さないようにしたい。間違ってることは「ちょっと違うからこうやったほうがいいんじゃないか」と言いますが…後は本人に考えさせるのがいちばんいい。
僕は昔「見て覚えろ」って言われて育ってきたんですけど、やっぱり見てても分かんないんですよ。自分で考えるしかない。こうやってみて失敗した、これもまた失敗した。でもこうやったらうまくいった、と。

—-食幹に入った時も、上の人たちは自分で考える余地をくれた感じ?

そうですね。むしろ「心配ないよね。どんどんやっちゃいな!」って感じで。だからスッと入れましたね。
でも、若いチームでやってるので舐められないようにしたいです。「若いから仕方ないよね」って言われないようにしたい。50代60代のお客さんもたくさんいますし、若くても自分たちがプロ意識をもってしっかりやらないと。

—-お客さんの年齢層でいうと、会話の内容も合わせるの難しいですよね。

知らないことは素直に「分からないんで教えてもらっていいですか?」と懐に入ります。「勉強になりました、ありがとうございます!」とお客さんを立てる。自分も勉強ができるし、次に来た時にまた会話になります。
20代からサービスやってると「年上のお客さんにどう気に入られるか」が課題になるんです。30代ならさすがに色々知っておかないといけないけど、20代なら明るく「わかんないっス、教えて下さいっ!」って方がうまく懐に飛び込める。いや30歳だとまだいけるかな…(笑)ここはIT系のお客さんも多いけど、その方面は全然わかんないので素直に聞くしかないです。
あとはギャグ飛ばしてきたお客さんにもギャグ返せるようにね。「面白いなお前」「あざっす、あざっす!」みたいなのも(笑)失敗することもありますけどね。「全然面白くない!」「すいません勉強します!」みたいな。

—-そういう切り返しできるの、大事ですね(笑)湯浅さんがお仕事する上で大事にしてることはなんですか。

「当たり前のことをする」です。ちゃんとお客さんの目を見て話す、きちんと見送る、お客さんがどう考えているか察する…。当たり前のことって意外と大変です。気を抜くと流したりしがちだから。
でも当たり前のことができていないとお客さんは納得しないし、当たり前のことをできるからこそ次のステップにいけて、それがお客さんの満足度につながる。だから当たり前のことをきちんとする。

—–確かにその当たり前のことをできてないお店もありますからね。

「メニューをずっと見てるけど何頼みたいのか分からないのかな…じゃあプレゼンしに行こうかな」とか。お客さんが考えてることを想像して、うまく手を差し伸べてプレゼンテーションします。
何回かいらしてるお客さんはある程度こちらにも情報が入っているので「この前これ飲んでましたけど今日はどうしますか?」とか。

■とにかく人を見る。判断材料はたくさんある。

—-お客さんが入店してから席に座るまでって、結構見てますか。

入って来た時に無口だったり陽気に入ってきたりとかは見ます。接待でも、硬い接待なのかラフなのかは見ます。「あのお客さんはこういう感じ」とスタッフ間で情報共有します。

予約電話はいちばん興味深いですよ。どんどん喋って「じゃよろしく!」っていうのはせっかちな方なので、ちょっとメモって「料理提供はスムーズにいくよう気をつけて下さい」って共有する。時間を正確に決める方だったら、メニューの順番や料理に合わせるお酒にこだわるお客さんかな…とか、けっこう電話の喋り方で分かるんです。
できるだけ電話の段階で情報を引き出すのもサービスマンとしては大事。接待の予約でも最初に「コース決めますか」って聞くと、「こうする」ってしっかり段取りするお客さんなら硬めの接待かなとか、「いや、みんな集まってから決めるよ」って言えば、内輪の親しい会社の中の会食だろうなとか、いろいろ判断材料が転がってるんですよね。

—-サービスマンずっとやってると、瞬時に人を見極める力が伸びそうですよね(笑)

僕歩いてて人の顔見るの好きなんです。こういう人かなって想像するのが好きで。他のお店に食事に行った時とかよく同行者に怒られます、「まわり見過ぎ」って(笑)スタッフさんこういう動きしてるんだとか、このお店はこの人数で動かしてるんだとか、結構面白い。
もともと食べ歩きが好きで。休みの時は外出るようにしてます。仕事のためというよりは自分の趣味で。和洋中問わず、話題のお店、お客さんから聞いたお店、幹さんから教えてもらったお店に行ったり。

—マネージャーになって自分の中で変わったことはありますか?

「マネージャーよろしく」「分かりました!」って感じでしたが、そこまで重責ではなかったです。前の店では役職はなかったけど役職の仕事を任されていたんで、ここでも責任感は意識して持ってました。でも役職がついた分、こうしたいって思いが実現できる可能性は近づいたので力を入れていきたい。今10年目を迎えてさらに集客も上がっていて、前年より大幅アップしていますし。

—-集客においてのサービスマンとしての営業努力ってどんなものがありますか?

僕が来た時は、日曜営業を再開はしたけど認知度は低くて。オフィス街の弱点の「土日が弱い」ですね。お客さんには伝えなきゃ分かんないと思って「土日もやってますよ、来て下さい」って積極的に。ビジネスで来るお客さん、接待だったり男性2人組で来るお客さんには「今度ご家族で来て下さい!」って言ったり。「おお、来るよ」って言って本当に来て下さったりしますね。それで土日のリピーターも増えました。そういう地道なことが今やっと花開いた感じです。
あとは、売り上げ達成した時はみんなで喜び分かち合うようにしてます。ひとつ達成したらみんなで分かち合いたいと思うので。

—以前田島さん(取締役・営業本部長)にインタビューした時「みんなもっと数値に執着した方がいい」って言ってたんですけど、そこは意識してます?

はい。営業前ミーティングでは前日の売り上げは必ずみんなに伝えて、月始めには一日の目標平均を出してます。予約人数で売上予想は出るので、あとはうまく予約を調整していかにお客さんを入れるかは僕らサービスの仕事です。サービスがお客さんを入れて、調理場がお料理を作って出す。お互い協力して売上伸ばしていきたいです。

—-前のお店では調理場とサービスには壁があったけども…。

今はオープンなのもありますけど、僕もズカズカ入っちゃいます(笑)
調理場が大変なら助けないといけないし、サービスが大変なら調理場に助けてもらわないといけない。小さいお店だからこそみんなで助け合えるっていう空間をつくる。サービスをしていてお客さんからもらった声ももっとみんなで分かち合いたいですね。

■「みんなで」の気持ちが強くなった。

—-これからの目標みたいなものはあります?

渋谷を歩いてて「美味しい和食ないかな」「あ、食幹いいよ!」って声がすごく聞けるようになったらいいなと思います。自分たちが働いてるお店の知名度上げたいですよね。「渋谷で和食なら食幹行こうか」って広がって、もっとお客さんに来てもらって。歩いてて聞こえたらすごくうれしいなって思うんです。個人としての欲はそんなにないけど、みんなが楽しければなと。

—-「自分の店やりたい!」とかは…?

それがなくなっちゃったんですよ(笑)料理人目指してたときはいずれは…ってあったんですけどね。
今は「やることはしっかりやりつつ、みんなが楽しく仕事をできる空間をいかにつくれるか」を実現したい。ゆるくならず、忙しいけどちゃんと仕事を楽しんでるっていう店空間ができればと思ってます。
社員研修でシドニーのレストランに行ったんですが、みんなすごい楽しんでたんですよね。ラフ感があるんですけどすごくしっかりやっていて。刺激受けました。

—-独立というよりは、みんなでいいお店を作り上げたいという気持ちの方が。

そうですね。このお店に居る限りお店を好きでいたいですし、好きでいるにはみんなと分かち合わないといけないなと。

—-最後に、サービスマンになりたい人に一言。料理人志望だったけど、やってみたらハマったサービスマンの魅力など。

評価がその場で来ますから。結果待ちじゃなくてダイレクトに来るので、やりがいがあると思います。自分がやっただけの分返ってくる。未経験の人でも問題ないです。人を楽しませるって誰でもやってることだと思うから。親とか恋人とか、その人たちを楽しませるにはどうしたらいいかって考えたことが必ずあると思うんです。それをそのままお客さんに置き換えればいい。「どうしたらこの人を楽しませられるかな」って。
人を喜ばせることが仕事だと思うので、その気持ちがある人はサービスに向いてると思います。

今は充実はしてますけどもっと上を目指したいですね。自分も、みんなも、お店も。食幹がディスカバリーの他の店舗をどんどん刺激していかないとと思っています。


たくさん「みんなで」という言葉が出てきたインタビュー。人を見るのが好きな湯浅さんは、道を歩く知らない人にも、お客さんにも、一緒に働くスタッフにも、愛があるんだなと感じました。愛ある接客、懐に入るトーク(笑)を体感したい人はぜひ渋谷食幹まで足を運んでみて下さい。