〜「shokkanryudo-cho 食幹龍土町」で食べたいひと皿〜
〜ディスカバリーを彩る水墨画のこと〜
~DISCOVERYではたらく人々 第13回~
〜和のクラフトビールに、和の美味を〜
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〜和のクラフトビールに、和の美味を〜
宮益坂を上りきり、青山通りから脇道を入った閑静な場所にある「Far Yeast Tokyo Craft Beer&Bao」。
こちらは「馨和KAGUA」や「Far East」など独自のクラフトビールでおなじみのFar Yeast Brewing初の直営店です。
ビールが大好きで飲み会では最初から最後までビールで通せる私(ライター)ですが、ここ数年で続々登場している「クラフトビールとそれが飲めるお店」はまだまだ未知数。そしてお恥ずかしながら違いもあまり分からない…。
しかしこの「Far Yeast Tokyo Craft Beer&Bao」には、はっきりと他と違うコンセプトが掲げられています。それは「クラフトビール×和食」。そしてこの「和食」部分を担当し、すべての料理のプロデュースをしているのがディスカバリーなのです。「極東」と名のつくビールをディスカバーした?まるでジパングを発見したマルコ・ポーロみたいじゃありませんか。これは行ってみなければ…!
というわけでやってきた「Far East Tokyo Craft Beer&Bao」。道に面している壁面はほとんどが窓。暖かい季節には大きく開放できるので気持ちよさそう。店内は木のぬくもりが優しく、とても入りやすいお店です。さっそく店長兼料理長の江澤雄三さんにお話を聞きました。
江澤「Far Yeast Brewing代表の山田(司朗)さんは和食好きで、自社のビールも山椒や柚子の皮など和の食材を使ってるんです。なので料理も和のテイストが欲しいということでディスカバリーに話が来ました。他のクラフトビール屋さんでは唐揚げ、ソーセージ、ポテトフライ、生ハムなど洋風の料理が定番なので、そこで差別化していますね」
店名にもついているBao(バオ)って何でしょう?
江澤「バオは“包”って書くんですけど、ふんわりした少し甘めの中華蒸しパン的な生地に肉や野菜など色んな具をはさむアジア風バーガーみたいなもので。山田さんが香港やロンドンで食べた時に衝撃を受けて“日本でも広めたい”となったようです。で、僕らはそれを和のアレンジにしました。赤味噌を使った土手煮の豚肉をはさんだり、かき揚げをはさんだり、薬味もパセリとかパクチーじゃなく、ショウガの千切りや長ネギ。今はバオ以外にも天ぷらとか串揚げとか、どんどん和メニュー増やしてます」
今はランチタイムも営業中。定番ものから変わり種まで、10種類のバオが食べられるそう。メニューを見ると、桜えびのかき揚げタルタルソース、蒸し鶏のピリ辛ゴマだれ、ハーブ三元豚の土手煮、サバカツとトマト 味噌ソースなどなど…ううう美味そうすぎる…!周囲をオフィスビルに囲まれているので、ランチにはOLさんも多いそう。そしてバオは外国人のお客さんにとてもウケているそうです。「アメイジング!って言われますよ」(江澤さん)
ところで江澤さんといえば「渋谷食幹」「いいと」「いいとikkai」を経験してきたバリバリの和食料理人という印象があるのですが、なぜ今回この「Far Yeast Tokyo Craft Beer&Bao(以下FY)」に?
広報の打木さんが答えてくれました。
打木「ディスカバリーにいる料理人は“ザ・和食”ひとすじの人が多いんです。修業もずっと和食屋さんとか。でも江澤は実はオールラウンダーなんですよ。和洋中経験してるし発想が柔軟だよねと。和がテーマではあるけれどもそれに縛られすぎず、こり固まらずやれるのではということで」
…江澤さん、そんなに色々経験してるんですか?
江澤「はい。調理師免許取ってすぐはイタリアン。そこからどうしても中華がやりたくて。中華って一つの鍋で全部やるし火の調節も足でやるんです。それが作り手としてめちゃめちゃ面白くて。その次に創作和食に行って和食を勉強して、次にいちばん上の兄貴とラーメン屋を立ち上げて、次に自分で独立してイタリアン。その後幹さんに声かけてもらってディスカバリーに来たんですよ。だから“ザ・和食”な食幹に最初に行った時の方がむしろ緊張しました(笑)立ち上げの経験者がディスカバリーには少ないので、新店ができるたび僕が異動マンになってますね。
今回クラフトビール専門って聞いた時には正直“えっ”て思ったんですけど、実際やってみたら楽しいんです。縛りもないし、好きなものを好きな時に試して入れられる。
それとここのオープン前に僕も色んなクラフトビール屋さんに連れて行ってもらったんですけど、FYのビールってレベル高いな…!って思いましたよ。他と飲み比べると分かりますよ、繊細なんです。だから料理も作りがいがありますね」
打木「都内のクラフトビール屋さんはセレクト型が多いです。この国のこのメーカーのビールとか、売れ筋を集めるとか。飲み比べしてみると、海外のクラフトと日本のクラフトには明らかに差があります。別に海外のがよくないということではなくて、“日本のクラフトビールすごいな…!”という。文化としては後からの参入なんですけど、探究心とか丁寧さがあるなあと」
江澤「うちに来るお客さんもクラフトビール好きが多くて、このビールはこうなんだよと逆に解説してくれる方もいます。楽しみ方が日本酒に近いのかもしれません。職人がひとつの蔵で厳選して温度調節してこだわり抜いてつくる感じ。なのでじっくり味わいつつ違いを楽しんで飲み比べるといいと思います」
私も「Far Yeast 東京ホワイト」を飲んでみました。普段ジョッキで水のごとくビールを飲み干すタチでクラフトビールはほぼ初心者。FY独特のワイングラスのようなグラスに入った東京ホワイトはとても飲みやすく、確かにきめ細やかでとても繊細。フルーティーな味わいもします。これは確かにガッと飲み干すものじゃないですね…。「どちらかというとワインのようにゆっくり楽しむものですね」なるほど納得。
そしてこのビールに和のお料理が本当によく合うんです。からりと揚げた串は1本から注文OK、さっぱりと上品でどんどんお腹に入りそうだし、小さなせいろに入った蒸しものは旬の食材をアツアツのホクホクで食べられます。
江澤「蒸しものは美味しいし、オペレーションも楽なのがいいんですよ。仕込みも火にかけないで蒸し器に入れておけば柔らかくなるし、火加減の心配がないし。これだけ小さい店で慌ただしいけど蒸し器があると全然違いますね。FYもこれらか店舗展開する予定がありそうなんで、いい調理法が入ったなと思います」
江澤さん、今後はこのFYをどういうお店にしていきたいですか?
江澤「いいとや食幹って、目の前で料理人がパフォーマンスする。でもこういう店は最初のつながりこそ僕とお客さんですけど、それだけにならないんですよ。例えばその場でお客さん同士が友達になって輪ができたり、行けば必ず知り合いがいる店って地元によくあるじゃないですか。FYでもクラフトビール好きが集うのでそっちとこっちのテーブルで“おお!こないだあそこで!”みたいなのがあるんです。なのでそういうお客さん同士の輪が広がってくれればいいなと思ってるし、もちろん新しいお客さんはこちらが手を差し伸べなくちゃいけない。そのつなぎ役になりたいです。ディスカバリーだとお客さん同士の交流ってなかなか起こりづらいので、それは楽しいです。かといって常連だけみたいな文化にはしたくない。一人でも入りやすい空気にしてあげたいです」
江澤さんのフレンドリーな雰囲気と多彩な料理経験が見事に活かされてますね。
江澤「でももし次に“もう一回ザ・和食で”とか言われても僕はかまわないです。上に言われることは基本的にイエス。何でも経験したいんですよ。そこでヤダって言ったら経験できないじゃないですか。求められてるならそれは嬉しいことだし、選ばれたのかなと思ってやればいいなと。なので次が和食でも新ジャンルでもいい。また新しい人に会えるし、ゴールはないですね」
日が落ちてからのお店はスタンディングで飲む人、一人客、談笑する外国人客、若い人、年配の人…本当にさまざまなお客さんでごった返し、活気にあふれていました。柔軟な姿勢、柔軟な発想。新しい和のクラフトビールと意外な組み合わせの和テイストの料理。店構えだけでなく、思わずフラリと立ち寄りたくなるFYの心地よい雰囲気は、こういうところから来ているのかもしれません。
江澤さん、最後に食幹など、ディスカバリーのお店のお客さまにFYを宣伝して下さい!
江澤「FYは、ディスカバリーの料理が好きな人は絶対ハマります!エッセンスもありながら、ちょっと違うものも楽しめる。僕もお客さんが“これとこれ合わせる!?”って驚くような面白いマリアージュを心がけています。あと、例えば“クラフトビール屋は料理が重たくて”って思うご年配のお客さまもFYなら大丈夫です。さっぱりいける天ぷらもあるし、蒸しものはヘルシーです。キノコと秋鮭のバター醤油、あさりの酒蒸し、蒸し牡蠣…。いくらおろしなんてのもあるので、さっぱり食べられますよ。ダイエット中の人にもいいかもしれない。女性男性問わず、一人でも複数でも楽しめるので気軽にいらして下さい。僕はフロアにもいるので声かけて下さい。“FY行こうぜ”じゃなくて“江澤の店行こうぜ”にすることを目指してるので、盛り上げ役として使って頂いても大丈夫です(笑)」
私も取材後、江澤さんにおつきあい頂いてトークとビールとお料理、すべて堪能しました。とことん気軽なのにとことんこだわりの美味しさ。足しげく通いたいお店が、またひとつ増えちゃいました…!
(近藤あゆみ)